のりトースト
 喫茶店に息づく和洋折衷
日経新聞 平成13年6月3日(日)朝刊
のりトースト
喫茶店に息づく和洋折衷

 外資系や全国チェーンのコーヒーショップとかカフェもいいけれど、昔ながらの喫茶店も捨てがたい。店の人とも仲良くなれるし、その店にしかない自慢のメニューも楽しめる。例えば「のりトースト」。これを出す店は少ないが、熱狂的なファンもいる。

 昭和四十年(一九六五年)食品メーカーの桃屋がテレビコマーシャルを流した。遅刻しそうなサラリーマンが、焼いたパンにバターを塗り、さらに同社の海苔の佃煮(つくだに)を重ねて、手早く食べるシーンだった。このCMで新たなトーストの食べ方に目覚めた人も多かったようだ。
 喫茶店ののりトーストはもう少し手がかかっている。東京・赤坂の「パンジー」の」特製のりトースト」は、焼いたパンにパターを塗り、細長く切り分ける。その上に七昧を振って醤油(しょうゆ)をつけた焼きのりを巻いたく。磯(いそ)辺巻きのおもちをバンに替えだものと考えればいい。細長いし、表面はパリパリののりだから、ロ元が汚れない。
 東京オリンピックひらか開かれた昭和39年(一九六四年)、食料品店から喫茶店に衣替えするにあたって、経営者の水野清子さん(81)何か特徴のあるメニューをと考えた。その結果生まれたのが、のりトーストだった
 食料品店だったから海苔の仕入ルートはある。品質を見分けるめも持っている.そのころはまだ赤坂の花柳界が健在で、たくさんの芸者集がいた.彼女たちが食べやすいように工夫すれば売れるのではと思ったというが、もくろみ通り女性客に人気で、看板メニューになった。
 違ったタィプもある。神田駅近くのコーヒー専門店「エース」ののりトーストは、薄切の食パンに醤油をたらして焼きのりを挟み焼く。それを三角形に切って二組重ね、 真中にパターを塗る。のり、醤油、バターの味が見事に調和する。三十年前に開店する時、店主の清水英勝さん(58)が,ご飯とのりを交互に重ねた「のり弁当」をヒントに考案した。このほか、パタートーストに四角い焼き海苔を乗せたタイプも存在するし、味にワサビを使うケースもあるようだ。

バターと醤油が調和

 のりとトーストというのがは一見変わった和洋折衷の組み合わせのようだが、考えてみると、・日本人が新たにな食べ物を生み出す時の法則にちゃんと合致している。トーストにのりの佃煮を塗るのは、パンと言う基本食材はそのままに、副食材のパ夕―やジャムと置き換えの代表的な先例だろう。
 磯辺巻きやサンドイッチ型は磯部巻きのもち、海苔弁当のご飯という基本食材の方を、 パンに置き換ええている。この代表格としてすぐに浮かぶのは、カレーライスのライスをうどんに置き換えたカレーうどん。日本人ほ昔からこんな方法が得意なのだ.
 ところで、のりトーストの起源はいつごろだろうか。パンジーの水野さんが貴重な話をしてくれた。「戦前、ウチの隣にカミコという喫茶店がありました。そこの奥さんが昭和十四、五年に半分に切ったトーストを海苔で巻いたメニューを始めたんです.ウチがそののりを納めていたのでよく覚えています。私ののりトーストのヒントは実はそれなんです。随分改良しましたけど」
 この話題から、のりトーストの歴史は戦前にまでさかのぼることがわかる.といって昭和の遺物のように思ってはいけないようだ。現に桃屋は5月から、トーストに海苔の佃煮という食べ方を提案する雑誌広告を始めた。昭和四十年のCM以来だが、今度はマヨネーズと組み合わせている.そこが当時と違って21世紀流だ。          (編集委員 野瀬泰申)
パンジーののりトーストの作り方(1人前)
@厚さ18ミリ(6枚切り)のパン2枚のミミを落とし、トーストする
A海苔は全形2枚を8等分しておく
Bパン2枚が焼きあがったら、バターを塗って、それぞれ4等分し、計8本のスティックにする
Cパンに七味を振る。小皿に醤油を用意する
D海苔のつるつるしていない方(裏)に醤油をちょんちょんと付けて、パンを巻く
Eこれ自体、ビールのつまみになるが、好みによってはチーズやハムを加えてもよい