天声人語
「朝日新聞」 2001年12月22日(日)

 ノリにも産地によって違いがある。色、つや、香り、柔らかさ、そして昧。それら多くは育った海によって決まるという。▼江戸時代からの歴史を持つ東京・大森のノリ問屋街で聞くと、現在、最高級とされるノリの多くは九州・有明産だという。風昧の良さと口の中で溶けるような柔らかさが特徴だ▼有明海は決して「きれいな海」ではない。大小100もの河川を通じて窒素やリンなどの栄養分が海に流れ込む。これがノリの成長に欠かせない。潮の満ち引きが日本一大きい海でもある。遠浅の海につるされたノリ網は、海水につかったり、天日にさらされたりを繰り返ず。こうすることでうまみの素となるアミノ酸が醸成されていくのだという▼それでも赤潮が発生しにくいのは、干潟の浄化作用によるところが大きいからだ。しかし、昨年、有明産のノりは記録的な不作に見舞われた。それまでなかった初冬の赤潮が原因だ。赤潮はこの11月にも発生した。その原因ではないかと疑われているのが長崎県諌早湾の干拓事業である。堤防が閉じられたのは4年前。その後、有明海の干満差が小さくなったとの報告もある"農水省の第三者委員会は、水門を長期的に開けて調査することが必要だとの提言を出した。「湾外への影響はほとんどない」としてきた干拓事業の環境アセスメン卜の信頼性も問われるところだろう。▼赤潮はいったん収まり、昨年の品薄感もあって、今年は高値で取引されているそうだ。しかし、いつまた起こるともわからない赤潮への不安は消えていない。